ガタガタ鰯太郎A

〜鰯太郎Aは二度死ぬ〜

鰯太郎さんったら、ご冗談ばかり

 ここのところ、科学に関する書籍を読むブームが来ている(個人的に)。今は「ご冗談でしょう、ファインマンさん」を読んでいる。ファインマンは20世紀の大天才の一人で、ノーベル物理学賞を受賞した偉大な科学者だ。アインシュタインフォン・ノイマンのような異能の怪物と言うよりも、めちゃくちゃ頭の良いビートたけしというような、親しみやすい人物だったらしい。下町の言葉(ニューヨーク訛り?)で話したためお上品な人々からは敬遠されたらしいが、社交的で、女性にもよくモテたそうだ。

 この「ご冗談でしょう、ファインマンさん」の中に、意味の取れないセンテンスを見つけた。翻訳の誤りか、誤字脱字の類なのか、それとも私が知らない語彙が用いられているのか、とにかくこんな文章である。

 僕は二、三の教授に頼んで、レンズを通して光線を追跡する仕事をやっているボウシュ・アンド・ロム社と、ニューヨークの電気試験場との二つに推薦状を書いてもらっていた。その頃は物理学者とはそもそも何をする人間であるかということすら知る者はなく、むろん実業界には物理学者の口なんか薬にしたくもありはしなかった。エンジニアなら大いに結構、だが物理学者となるとその使い方も知らないのだ。 

 この、緑の部分の意味が取れない。まず「口を薬にする」の意味がわからない。「口を薬にする」がわからないからか、文全体の主述関係も不明瞭なように見える。2点の逆シナジー効果で、ますます意味がわからない。

 日本語では、文法構造上の主語を必要とせずに主題だけを提示することができる。英語では、「It」や「I」が必要になる場合にも、日本語では「明日は曇りのち晴れでしょう」「熱いコーヒーが飲みたい」「レインボーブリッジが閉鎖できない」などが成立する。それで、

 むろん実業界には物理学者の口なんか薬にしたくもありはしなかった

のように気軽に書けてしまうのかもしれない。結果、よくわからない訳文になっている。引用中、「その頃は~」から始まる2つ目の文には、おそらく以下のようなことが書かれているのだと思う。

 

・その頃は物理学者が何をする人間か知る者がいなかった。

・(そして)それは当然、実業界においても同様だった。

・(だから)物理学者の口なんか薬にしたくもありはしなかった

 

以下、3つ目の文に繋がる。

・(つまり)実業家はエンジニアならば歓迎したが、物理学者を雇おうとは考えなかった。

・(なぜなら)実業家は物理学者の使い方がわからなかったからだ。

 

 こうやって整理した結果、「物理学者の口なんか薬にしたくもありはしなかった」は、「実業家はエンジニアならば歓迎したが、物理学者を雇おうとは考えなかった」に近い意味であると推論できる。しかし、やっぱり文そのものの意味ははっきりしない。スラングか何かなのかなー。

「物理学者の名前なんか口にもしたくない」っぽい文章の誤訳?

「物理学者の口(就職先)なんか、(実業界にとって)薬にもなりゃしない」?

「物理学者の口(言うこと)なんか、薬にしたくない(役に立たない)」?

等々、色々考えたけれどしっくり来ないのだ。

 

 気になって「薬」のことわざなんかを調べてみたけれど、そういう日本語の言い回しは見当たらない。「口薬」に口止め料の意味があることがわかって、へ~、と思ったが、ぜんぜん関係ないのだった。誰かわかる人、教えてください。

 ついでに、薬のことわざ・故事成語を6つ覚えたよ。

薬も過ぎれば毒となる

 オーバードーズは危ないよ、というありがたい先人の知恵。

酒は百薬の長

 ヘロインやスピードの危険性はみな知っているけれど、アルコールも相当やばい薬物でむしろドラッグの王だぞ、というありがたい先人の知恵。酒は無慈悲なヤクの女王。

自家薬籠中の物

 通っていた中学校から100メートル先にある私立「自家薬科大学付属籠中学校」の備品。通学路が重なっているためよくトラブルの原因になり、2年生の木村くんが殴られて事件に発展した。ロウ中って、カオス中と対を成しそうでかっこいい。

二階から目薬

 一見不可能な目標でも、クラス全員が一致団結すれば成し遂げられないことはないという故事成語。大西がよく自慢気に話す。


理屈と膏薬はどこへでもつく

 何処へでもつくからと言ってバンバン貼ってるとツイッターSNSで痛い目に合うという戒め。理の無い所に煙は立たない。


尻に目薬

 フロイトが提唱した、肛門期の青少年に見られる自慰行為への異常な創意工夫を指す用語。思春期の野放図な性的関心が本来の用途と異なる意外な利用法の発見、即ちセレンディピティをもたらすことから、童貞力を称揚するスローガンとして盛んに用いられた。類義語に「ダンボールにキャバレー」「障子にメアリー」など。