ガタガタ鰯太郎A

〜鰯太郎Aは二度死ぬ〜

遠足は行くまでの準備が楽しいと言ってる奴はだいたいバスで寝る

 毎年自宅で忘年会をやっていて、今年で5年目くらいになる。忘年会を自宅で開催するメリットは色々とあるが、最も良いのは、年に一回、強制的に家が綺麗に片付くという点だ。

 私は見栄っ張りとおもてなし心がアウフヘーベンしたナイスガイ(大嘘)なので、人が家に来る場合、くつろいで欲しいと思っている。したがって、ブラインドに積もって脂で固着したホコリ層、椿の花が雨で濡れ、のち腐り果て積もる庭、「ボロを着てても心が沼」といった風情のサボってる感が充溢するトイレに、自ずから目が行ってしまうようになるのだ。誰に言われた訳でもないのに、そろそろ掃除をせにゃならんの心持ちになっているのだ。

 そうやって、12月に入ると私は、うらみ、そねみをつぶやきながら1年分の汚みを拭き取っていく日々に時の流れを感じる感じになり、いざ忘年会を迎える頃には既に今年のことなんて忘れちゃっている。この若年性アルツハイマーのごとき前倒し忘却の妙技に、私は5分前集合の魂を見るのだ。

 私はカクヤスをコールし、クラシックラガーを1ケース注文する。玄関を掃きながら、配達の原付が立てるエンジン音を待つ。冬の空は妙に清い。凍えた左手を右の乳首に、右手を御凸にあててポウと叫べば、文明開化の香りがする。これは幻臭というか、俺の掌が臭いのであった。ありがとうマイスメル。忘れたいことも忘れたくないことも無いし、惑星はまた楕円軌道を一回りする。