ガタガタ鰯太郎A

〜鰯太郎Aは二度死ぬ〜

2015/07/10

 今年の春は、ずいぶん過ごしやすい気候の日が長く続いた。7月に入っても暑気を忌々しく思う日は数えるほどしかなかったが、どうやらいよいよ夏がやってくるらしいと天気予報を見た妻から教えられた。

 居間には、まだひんやりとした空気が漂っている。この家は壁が厚く、外気温の変化に鈍感だ。室内に夏の空気が満たされるまでには、まだ多少の猶予がある。

 仕事の合間に片付けをしていると、いろいろと雑多な小物やよくわからない布などが出てきて面白い。竹をあしらった涼やかな色合いの箱、の、蓋だったと思われる平たいものが気に入った。カルトンにちょうど良いサイズである。祖母は、筆置きにでも使っていたのだろうかと思うが、肝心の箱本体の方は見当たらない。

 葬儀に伴って仏間を整理したところ、まとまった量の本が目に入った。かねてから「沈まぬ太陽」を読みたいと思っていたところに同じ山崎豊子の「運命の人」文庫本4冊が出てきたので、これ幸いと拝借した。山崎の著作には初めて触れたが、大変読みやすい。

 極めて巧みな作文能力で史実を脚色したフィクションを発表しているところが司馬遼太郎に通じる。「運命の人」は西山事件がネタ元だが、存命中の人物をこの手法で書くのは、何かと問題も多いように思う。とは言え、自分にとっても1970年台はもはやファンタジーの領域だ。