ガタガタ鰯太郎A

〜鰯太郎Aは二度死ぬ〜

 何かが春めいてきている。そう思っていたのも束の間、もはや夏めきかけている始末。日本の四季はせっかちだ。

 マーケットだって目まぐるしい。昨日は群馬産・豚バラ薄切りが123円/100gだったかと思えば、今日はカナダ産・豚肩切り落としが83円/100g。西に安い小松菜があれば買っておひたしにしてやり、東にお買い得のほうれん草があれば茹でてナムルに転生させる。コンゴトモヨロシク・・・そういう悪魔に私はなりたい。

 ここ1年、前より強く死を意識している。みんないずれ死んでしまうのだとわかってはいても、それを本当に認識の俎上に上げることはとても恐ろしい。

 祖母、叔母に立て続けに病気が見つかって、否応なしに「それ」を考えさせられる。時間の流れはとにかく早い。俺も、あっという間に死んでしまうのだろうか。困ったもんだ。

 祖母は末期のがんなのだそうだ。しかし、普段と様子が変わったところなどもなく、痛みも感じていないらしい。既に、身体の感覚が正常な状態で無いのかもしれない。不思議なものだ。書道の先生をやっていた祖母が、今では字も書けなくなってしまって、それを嘆くことすら忘れている。数年前から家族の顔もあまりわからなくなってしまって、今、全身を病気に侵されているのにも関わらず、ひたすら、異常に穏やかな時間の中にいる。きっと、起きながら夢を見ている。

 こんな幸せがあるだろうか。人が穏やかに佇んでいるということが、こんなに恐ろしいということが、あるのだろうか。なんだか最近、よくわからないことばかりだ。