ガタガタ鰯太郎A

〜鰯太郎Aは二度死ぬ〜

アメリカン・ビューティーの感想(ネタバレあまりなし)

 意識の高い小学4年生です(大嘘)。アメリカン・ビューティーを見たので感想書きます。

 あらすじ的には、嫁にぞんざいに扱われ、娘からもウザがられ、バスルームで毎日オナニーしながら死んだように生きているうだつあがらないマン、レスターおじさんが娘の同級生に恋をして覚醒し、周りの目なんか気にせず自分の意志で生き方をゴリゴリ決める男に変貌することでレスターおじさんの人生が輝きはじめ、引き換えに、それまで保たれていた人間関係の均衡が連鎖的に崩れていくというお話です。

 おもしろかったー。おもしろかったんだけど、ちょっと説明に困ってます。困っている理由は「2つ」あります(意識の高い俺はプレゼンの冒頭で数字を出す)

 

1.簡単に説明できぬ

 映画を簡単に説明するのはそもそも難しいんですが、アメリカン・ビューティーは定形の分類にあてはめられない映画で、簡単な言葉で説明しにくいです。TSUTAYAではこの映画をどの棚に置くんでしょうか?(ジャンルで分けるあの並べ方、やめてほしい)

 サスペンス(主人公を殺すのは誰か)とも言えるし、恋愛ドラマ(主人公が恋をすることが物語の推進剤)とも取れるし、社会風刺(アメリカの一般的な、幸福な家族関係が見事に崩壊する)と言っても良いです。

 アナ雪がお子様大好きハンバーグだとすると、アメリカン・ビューティーは手間をかけて取った出汁を使って、一品ずつ別々に調理した煮物みてーなもんです。サスペンス芋もホクホクで美味いし、ロマンス鶏肉にも味が染みているし、社会派ごぼうも柔らかく、それでいて歯ごたえがある。それらが一皿で供された時に、全体のバランスが高いレベルで調和しとる。ほ、宝石箱や!ジュエル界のボックスや!!でもぱっと見はフツーの煮物なんで、子供は喜ばない感じですかね。そういう味を説明するのって、難しくないっすか?とにかく、この映画はいい出汁使ってます。

 出汁の主成分としては、質の高い脚本、巧みな演出によって立体的に造形される登場人物の魅力的なキャラクター(体言止め)。

 例えば、主人公が恋に落ちてからの豹変ぶりが清々しい。仕事と家庭に抑圧されてくすぶってたオッサンが、たるんだ肉体を鍛えてアンジェラと一発キメてやろうとマリファナ吸いながらワークアウトに励みだす様は、滑稽なのに爽快。大爽快です。それまでリストラにおびえていたはずなのに、むしろ仕事辞められてラッキー!わしゃ自由じゃ!ついでに上司を脅迫して退職金上積みさせたるか!と、超自分勝手な気持ちいい人間に生まれ変わってしまい、恋ってすごいですね。はじめに好きとか嫌いとか言い出したのは誰なんでしょうか。

 主人公以外にも濃いメンツ揃いで、妻のキャロラインはピーキーな脆い精神に被害妄想が宿った意識の高い中身空っぽクソ女(このクソっぷりが実にクソで秀逸)ですし、恋の相手の女子高生アンジェラ、主人公の隣に住んでるフィッツ大佐の描かれ方もすげえ良いです。人間の二面性ってやつをしっかり描写していて、深みあるんですよ。深みあるよなあ。ただ、どう深いのか説明しようとすると、2点目の問題点に抵触するのです。

2.ネタバレしてはならぬ

 この映画はネタバレしてしまうと少々勿体無いタイプの話です。でも、登場人物の二面性がそのまま行動の動機や伏線になっていたりするので、あまり詳しく書けないんですよ。困ったなあ。

 物語の冒頭で主人公が最後に死ぬことが示されるんですが、何がどうなって死ぬのか、最後まで予測がつきません。複数の人間関係がパラレルに進行していく日常の中で人間関係が煮詰まっていき、ギリリと引き絞られて高まっていくテンションが、どこで誰によって破裂するのか、最後までわかりません。アンジャッシュのコント的に勘違いが勘違いのまま事態が進んでいき、時限爆弾的に炸裂するというような小技も効いたりします。


アンジャッシュ 間違い探しの本によるすれ違いコント - YouTube

 

 別の言い方をすると、主人公が死ぬことがあらかじめ提示されてることによって、登場人物のほとんどに主人公を殺しそうな動機が見えてしまったり、「わ、わ、その勘違いはヤバイって!」という見てる側の緊張感が高まる仕掛けになっていたりするんですね。主人公がヤバさに全然気が付いていないところもドキドキします。怖い怖い!人間怖い!

 それと、この映画は幸福とは何かという問いに対する一つの答えを示しています。「ありのままに」生きたら人生がとても充実して、しかしそれが遠因で死んでしまうというのはいかにも皮肉ですが、しかしレスターおじさんの死に顔はとても安らかです。完全に満たされている。

 アナ雪のようなご都合展開でなんとかなってしまうことはなく、レスターおじさんには死が待ち受けている訳ですが、天に召されながら放つラストの一言がとても効いてまして、様々な意味に解釈することが可能です。気になる人はアメリカン・ビューティーを見るのだ!


 ・・・ネタバレしないと上手く書けません(半ギレ)

 ですので、wikipediaから

アメリカン・ビューティー」とはバラの品種の一つである。色は真紅で、発祥の地はアメリカ合衆国。映画の中でこのバラは様々な意味を持っている。例えば「豊かな家庭の象徴」としてキャロラインが自宅の庭に赤いバラを栽培し、「官能の象徴」としてレスターの妄想の中でアンジェラと共に赤いバラの花弁が登場している。

また、アメリカの中流家庭の崩壊を描いた映画に「アメリカの美」という題名をつけることで、アメリカ社会に対する強烈な皮肉を利かせている。

を引用させて頂き、お茶を濁してしまうことといたします。いやあ、集合知って本当にすばらしいですねえ。