ガタガタ鰯太郎A

〜鰯太郎Aは二度死ぬ〜

たまひよの日

 卵が余りそうなので、煮卵を作っている。卵を茹でるときは氷水で冷やすのがコツらしい。

 しかし、冷やし加減がいまいちわからない。氷水を使えという指示の意図は、こっくり中まで冷やすこと(奪う熱量を大きく)なのか、短い時間で急激に冷やす(瞬間の落差を大きく)なのかが不明だ。不明だが、確かに氷水で冷やすと、いつもより殻がむきやすい。知恵だ。

 4個作ろうとして茹でたが、鍋の中で1機死亡した。ひびから中身が出て、そのまま茹でられて固まって、何かおぞましい物体になってしまった。

 卵を茹でて食う行為が猟奇的だと思う人はあまりいないかもしれないが、実際、やっていることは鬼畜の所業である。胎児を熱湯に入れ、正確に6分半をタイマーではかり、素早く氷水に浸して冷やし(それも皮をむきやすくするために!)、あまつさえみりんと醤油に漬けこんで、氷点下近くの暗い部屋にぎゅうぎゅうに押し込めて、最終的には美味しく頂いてしまうような奴はどこからどうみても文句のつけようがないサイコパスである。胎児っていうかたまごなんだけど。

 倫理観なんて、とても恣意的なものなのだ。だから、対象がたまごなのか人間の胎児なのかでこれほど感じ方が違ってくる。そんなの当たり前じゃん、と思うかもしれないが、全然当たり前じゃないと考えておいたほうが俄然賢そうに見えるし、メガネも似合ってくる。賢マンブラザーズバンドなのだ。それに、壁を一つ隔てた向こう側で、自分以外の人間が何を考えているかなんて、保証のしようもない。胎児をたまごと取り違えている奴や、愛情を金銭と取り違えている奴がいたって、大して驚かないぜというポーズがメガネのスタイルだ。だって顔の一部だもの。

 氷水でゆでたまごを冷やしながら、この国のどこかに5人くらいは「なまたまご」というペンネームで同人誌を描いている人間がいるのではないかと私は考える。キン肉マンのエロ同人なんて一体どういうシナプスから執筆意欲が湧いてくるのか理解不能だが、バッファローマン総受け、みたいな需要も1億分の1くらいはあるのかもしれない。

 それよりもむしろ、ゆでたまご先生は何を思ってペンネームをゆでたまごと定めたのだろうか。俗に「ゆで理論」と呼ばれる理論は、ゆでたまご命名の瞬間まで名前の無い謎理論であった訳だが、それは宇宙を満たすダークエネルギーみたいなもんなのだろうか。ミヤネ屋はこの件についてどう言っていたのだろうか。

 私がそう思ったので、今日はたまひよの日なのである。