ガタガタ鰯太郎A

〜鰯太郎Aは二度死ぬ〜

マイベスト・ドラッグムービー、トレインスポッティングの感想

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 100本映画を見た結果、俺的ベスト映画となったトレインスポッティングについて。

 見てない人はぜひ見ていただくと最高にかっこいいです。超ドラッギーな映画なんで、PTA的な感じの人は眉をひそめるような内容だと思うけど、この映画には(良い意味でも悪い意味でも)人生の輝きが詰まってます。

 ヘロイン大好きマーク・レントン君がスコットランドの片田舎でクズ仲間達とくすぶったり、クラブでナンパした超いけてる女とやっちゃったら高校生だったり、ヘロイン打ちすぎて友達が死んだり、クズ仲間達とくすぶったりするだけの話なんですが、これがすこぶる美しいです。サイタマノラッパーで言うところのHIPHOP=心の支えがヘロインという、初手から詰んでるような話です(ものすごい大雑把な説明)。

 

オープニング

 軽快なイギー・ポップをBGMに、どアタマから「人生に何を望む?」と来る。原語では、「Choose life」。これはスコットランドの自殺防止のスローガン、らしい。そこから、人生に必要なモノ、あるいはクソッタレなモノの名前をまくし立てる。洗濯機、CDプレイヤー、単なる暇つぶしの日曜大工、健康、低コレステロール、保険、固定金利住宅ローン、マイ・ホーム、友達、ジャンクフード、腐った体を晒すだけの醜い老後、くだらないクイズ番組。その羅列のドライブ感。Choose your future, choose life. 導入としても上手く機能していて、名前とキャラクターが一発で頭に入る。

 

ドラッグ

 ドラッグ、禁断症状の描写がとにかくキてる。天井を歩いてくる死んだはずの赤ん坊、絨毯に沈んでいく身体、スピードをキめてハローワークの面接で多弁になるし、スコットランドで一番汚いトイレの便器に飛び込んで海の中で座薬を探すし、やりたい放題。

 出てくる連中は基本的にみんな良い奴で、弱い。レントンは何度かヘロインを止めようとするんだけど、惨めな気持ち、憂鬱を散らすために度々ヘロインに手を出してしまう。「ドラッグに手を出す」あるいは、「やめてたのにまた手を出してしまう」理由、経緯ってこういう感じなんだな、って納得してしまう説得力。貧困、不景気、閉塞感、灰色に塗りたくられた人生が、ヘロインで全然オッケーになってしまうんだ。そしてまた悪循環。

友情

 レントンは完全にヘロ中だし周りの連中もそろってクズなんだけど、「友達だから」という気持ちを大事にしている。友達が困ってれば助ける。しょうがない。それがどんなにクズでもだ。ヘロ中だし逮捕歴もあるけど、やっぱりレントンは良い奴なのである。

エンディング

 オープニングのリフレインになっている。BGM、アンダーワールドのBorn Slippyが入ってくるタイミングが完璧。そしてここでまた、Choose life」、レントンの独白。「何故裏切った?」「俺がワルだからだ」。凄くいい。きれいごとや自己憐憫なんかで誤魔化さず、自分はクソッタレだと確信している。変わってやるんだ、という決意(そして、それがきっと上手く行かないだろうという、俺の予感)。これから手に入れようとしているモノの名前を並べ立てる。それは、出世、家族、大型テレビ、洗濯機、車、CDプレイヤー、健康、低コレステロール、クイズ番組、住宅ローン、スーツ、日曜大工、家族でクリスマス、年金、税金控除・・・。欲しいもの、クソッタレなもの、平穏な人生だ。うわーんかっこいいよー。

 

何故かっこいいのか

 たぶん、ナチュラルに平穏な人生を送れない連中が身の回りに多いから、トレインスポッティングがこんなにもビリビリ来てしまうんだと思う。俺は自分のことを普通だと思ってるんですけど、だからこそアレな感じの人に憧れてしまうところがあるんですよね。

 それと、俺はどうしてもまっすぐに健やかに人生を見つめられません。根っからポジティブだったり、非の打ち所が無く素晴らしかったり、人のために無償で奉仕できたり、人生が素晴らしいものだと信じてたりする人間は、うさんくさいしちょっと馬鹿だと思ってしまいます(やっかみも込めて)。「人生は死ぬまでの暇つぶし」と言ったのはタモリだったかみうらじゅんだったか大瀧詠一だったか忘れましたけど、俺はその言葉が大変嬉しかった。だって死ぬもんね。ブスも美人も死ねば土なんですよ(これは伊集院光だったか)。

 どれだけ人生を充実させても、善き人として生きても、やっぱ死ぬし死んだら無なんだよね。生きるということは絶望との戦いな訳なんです。生きてればいいこともある、と言い切れるのは強い。強いけど、なんかビビッてるくらいの方が人間っぽくて良いと思うんですよね。最後には逃れようの無い死が待ってる。どう考えても死後の世界はないし、あったらラッキーくらいには思ってるけど。

 そんな風にひねくれて生きるということを考えているので、絶望的に閉塞した中で、自分はワルだ、と見定めて、しかしやってやんぞと息巻く(そしてたぶん駄目であろう)マーク・レントン君が馬鹿みたいに尊く輝いて見えるんです。ま、ヘロインはやりませんけど。