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ガタガタ鰯太郎A

〜鰯太郎Aは二度死ぬ〜

スマイル☆地元じゃ負け知らずキュア

妄想

 

 2013年10月9日。東京は、とても風の強い日だった。

 ばボボボぼぼbと、バグった「熱血硬派くにおくん」みたいな音がする。流体力学のことは良く分からないが、僕の住むマンションはある方向からの風が流れ込みやすくなっているらしいのだ。自室はゴオゴオ、リビングはぴゅぴゅぴゅのぴゅー、風呂場の扉はバタンバタン。玄関も、風圧で重い。おまけに、排水口までンゴゴゴゴゴゴゴwwww、と鳴っている。一体何がおかしいのやら。

 普段なら、キテレツー玄関が開けられないナリーとか言って出かけるのをやめている。最近の僕は異常に諦めが良い。生きているのが不思議なくらいだ。だが、生憎この日は外せない用事があった。マンションを出てみると、目の前をコンビニ袋が飛んでいく。鳥になりたい。貝にもなりたい。人生は忙しい。

 歩きながら路上に止まった車のガラスに自分の姿を映すと、寝癖がうやむやになっている。どっちみちぐしゃぐしゃだったのだが、なにかこう、不可抗力的なニュアンスがついている。不可抗力。いい言葉だ。大自然の恵みだ。

 駅前のビルの下に並んだカラーコーンは、放射状に倒れていた。なにこれ、爆心地みたい。爆心地山下。という中学校時代に考えたあだ名を思い出す(誰にもつけなかった)。自転車も数台が横倒しになっていて、台風でも来るのかというような騒ぎだ。はやく用事を済ませておうちにかえりたいと、改めてがっかりしながら僕は改札に近づいていった。すると、正面から二人のジャージが歩いてきた。男達の会話が聞こえてくる。

「トオル!今日風強いぞ!」

 うむ。全く同感だ。そりゃあ言うまでもなく明らかだ。トオル君の髪、すごいことなってるし。君たちはー、あれか。あんまり仲が良くないのか。それで一発、世間話の中でも最も無難な、天気の話題から入ろうというわけか。するとこのトオル君、予想だにしないことを言った。

「センパイ、今日風強いスか!」

 風強いスか!聞き間違いではない。風強いスか!と言ったのだ。なにそれ!信じられん。今まさにBOWBOWいってるじゃないかトオル!いやむしろ、今日<の>風は強いですかセンパイ、と改めて確認しているのではないか。それともなにか?風が強いのは承知の上っスけど、やっぱセンパイがビッと言ってくんねえと、示しがつかねーじゃあねーっスか、そういうこと?それにセンパイ答えて曰く。

「オぉ!今日は風強いな!」

 許可が出た!オッケー出ました!確かに風はつえーけど、俺も普通じゃねえ。けどよ、その俺が認めるくれー今日の風は強えな!そんなニュアンスだ。何なのこの二人、地元じゃ負け知らず感ハンパねえ。センパイ、ニヤリ。トオル、「さっすがセンパイ!」の笑顔。そして二人は自動改札にpasmoをタッチ(ハイタッチじゃないんかい!)。正面を向いて、

「わっはっは!」

なんだこれー!!高笑いした瞬間、センパイとトオルは自動改札に阻まれて肩こそ組んでいなかったが、心の肩はガッチリだ。で、自動改札がバコンと開いて二人がゲートから飛び出してくる。2頭立てだ。

 げんなりしていた俺の心に、この二人はグッと来た。どっくーんときた。センパイとトオルは、そのまま川の方へ歩いて行った。川とセンパイ、どっちが強いか確かめにいったのだろう。